世界初、印刷で作れる電子タグで温度センシングとデジタル信号の伝送に成功

世界初、印刷で作れる電子タグで温度センシングとデジタル信号の伝送に成功
-従来比10倍以上の高性能、1/10以下の低コスト化を実現-

NEDOプロジェクトにおいて東京大学、大阪府立産業技術総合研究所等のグループは、印刷で製造可能な有機温度センサと高性能有機半導体デジタル回路を開発し、電子タグとして温度センシングと商用周波数での温度データ伝送に世界で初めて成功しました。デジタル回路を用いる低消費電力の設計と室温近くの大気中での半導体製造工程により、省エネルギーを実現します。

従来の塗布型有機半導体よりも、10倍以上高い性能で、1/10以下の低コスト化が可能な印刷法で形成でき、軽く、薄く、曲げられ、低コストな温度センサ機能つきプラスティック電子タグとして、工程管理やヘルスケアなどの広範な用途が期待されます。

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写真:開発した温度センサ機能つき電子タグの有機単結晶デジタル回路

1.概要

有機半導体は、現在、主に用いられているシリコンなどの無機半導体と比べて以下の特長があり、次世代トランジスタなどエレクトロニクス素子への応用開発研究が盛んに行われています。

①塗布法・印刷法といった簡便かつ比較的低温での作製が容易

②薄型

③低コスト

④プラスティックRFIDタグやフレキシブルディスプレイなどのユニークな用途が期待できる

しかしながら、簡便かつ低コストに成膜し、実際に商用周波数でRFIDタグと通信する高速応答性能を実現することは困難でした。そこで、NEDOプロジェクトにおいて、コア技術開発を行う研究機関とそれぞれが異業種に属する企業グループによる産学連携チームを構築し(図1)、有機半導体による革新的プラスティックRFIDタグの研究開発を組織的に推進しています。

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図1:本NEDOプロジェクトの研究体制

この度、東京大学、大阪府立産業技術総合研究所等のグループ※1は、印刷で製造可能な有機温度センサと高性能有機半導体デジタル回路を開発し(図2)、電子タグとして温度センシングと商用周波数での温度データ伝送に世界で初めて成功しました。

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図2:新規に開発した13.56 MHzに応答する有機デジタル温度センサ回路

具体的には、有機半導体を塗布し結晶化させる技術を基に、高性能の有機CMOS回路※2と塗布して作れる有機デジタル温度センサを独自開発し、13.56MHzの商用周波数によって電波でのデジタル信号の伝送※3を実現しました。従来の塗布型有機半導体よりも、10倍以上高い性能で、1/10以下の低コスト化が可能な印刷法で形成でき、さらにセンサ部も塗布法で作成し、温度検知機能つき物流管理タグとして利用できることを示しました。

そのほか、軽く、薄く、曲げられ、低コストな温度センサ機能つきプラスティック電子タグとして、工程管理やヘルスケアなどの広範な用途が期待されます。

なお、2015年1月28日から30日に東京ビッグサイトで開催される「nano tech 2015」において、本成果を用いたRFID信号の伝送実験の実演を予定しています。

2.今回の成果

(1)低コストの印刷型デバイスで、デジタル温度センシングと非接触RFIDデジタル通信をはじめて実現

下記の技術開発によって、デジタル温度センサと高性能有機論理回路を印刷可能な方法で作製し、13.56 MHzの商用周波数で信号伝送できることを実証しました。

①「塗布結晶化法」による新しいCMOS回路集積技術

東京大学グループが開発した「塗布結晶化法」は、有機半導体を溶液で塗布すると同時に結晶化させて膜にすることができる簡便な手法です。今回新たに開発した方法では、p型及びn型の有機単結晶をライン状に連続成長することによって、10 cm角程度の「有機CMOS回路」を製作することの可能になりました(図3)。p型及びn型の有機半導体分子が混合することなく、規則正しく配列するため、高移動度の有機半導体を形成でき、集積化に適した多数の同じ特性のトランジスタを製作できることが特徴です。

さらに、富士フイルム株式会社と共同で、フレキシブル基板上のプロセス検討を行い、デジタル回路動作の確認にも成功しました。

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図3:ライン状塗布結晶化法と有機単結晶CMOS回路

②印刷できる有機高分子デジタル温度センサ

大阪府立産業技術総合研究所のグループは、溶液から簡便に作れる有機高分子材料PEDOT:PSSの抵抗が温度変化する現象に着目し、室温付近で感度の高い、低温塗布型有機温度センサを開発しました。さらに、典型的な塗布型有機トランジスタの性能(0.1-1 cm2/Vs)を1桁も上回る10 cm2/Vsのキャリア移動度を有する有機半導体「アルキルDNBDT」を用いて、抵抗のアナログデータをデジタルデータに変換する回路を構築しました(図4)。これにより、物流管理や体温モニタに利用できる印刷プロセスによる低コスト、フレキシブルのデジタル温度センサが得られました。

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図4:有機抵抗温度センサとデジタル変換回路

③低コストアンテナと直結した高速応答する有機TFT整流素子によるRFIDデジタル通信の実現

トッパン・フォームズ株式会社が開発した低コストのアンテナデバイスと上記CMOS回路を同一プラスティック基板に実装し、温度センサと直結することにより、13.56 MHzのRFID信号で温度データのデジタル伝送に成功しました。

印刷が可能な有機デジタル回路によって、センサ出力のデジタル変換とRFIDデジタル通信による信号伝送が実現したことは、NFC(near-field communication)用低コストかつ軽量フレキシブルのセンシングデバイスの開発に直結します。今回の研究開発は、以前の塗布型有機半導体よりも、10倍以上高い性能の有機TFTが、1/10以下の低コスト化が可能な印刷法でp型及びn型の半導体薄膜が形成でき、CMOS回路として集積化できることを示しました。現在、より多ビットのデータ伝送を目的として、論理回路の更なる集積化を可能にする研究開発を進めています。塗布・印刷法等により一度に大面積フィルム上にデバイスを形成することにより、低コストの生産が可能となるため、物流を効率化する省エネ用電子タグや医療用センシングデバイスなどの普及につながります。

(2)技術的背景

東京大学竹谷教授らは2003年に有機半導体の結晶を用いたトランジスタを開発し、これまでよりも格段に高い性能を実現することを見出していたため、実用化に有利な溶液塗布法によって有機半導体結晶を作製する方法を検討してきました。2011年には、溶液から有機半導体結晶を析出させてきわめて高性能の有機TFTを開発し、2012年には、塗布結晶化法を利用した、液晶ディスプレイの駆動にも成功しました。2014年、単結晶TFTの高速応答特性を利用した低コストのRFIDタグ用整流器の開発を発表し、今回は、有機温度センサの開発と合わせて、単結晶TFTを高性能デジタルセンシング回路に適用できることを示しました。 

3.今後の予定

今後、NEDOプロジェクトにおいて、開発を進めている温度センサを搭載した物流管理用RFIDタグの試作を進め、実用化への研究開発を加速します。また、東京大学内に組織した、有機材料開発からパネル部材、装置開発、デバイス開発を行う企業とのコンソーシアム「ハイエンド有機半導体研究開発・研修センター」では、RFIDタグに限らず、高速動作の有機エレクトロニクスデバイスの開発を広範に目指します。

【用語解説】

※1 東京大学の竹谷研究室、大阪府立産業技術総合研究所の宇野主任研究員グループ、トッパン・フォームズ株式会社、JNC株式会社、株式会社デンソー、富士フイルム株式会社、TANAKAホールディングス株式会社、日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社で構成されるグループ。NEDOの戦略的省エネルギー技術革新プログラム「革新的高性能有機トランジスタを用いたプラスティック電子タグの開発」にて実施。実施期間は2012~2017年度。

※2 有機CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)回路は、活性層にp型及びn型の有機半導体を用いる薄膜トランジスタを集積させた回路。低消費電力の効率的な論理演算が可能となる。

※3 「電波による個体識別」を意味するRFID(Radio Frequency IDentification)信号を非接触で伝送。13.56 MHzは、Suicaなどの乗車カードやEdyなどの電子マネーに用いられる非接触通信用の周波数。