研究室紹介
本研究室では、有機半導体の物質科学を次世代のエレクトロニクス産業に結びつける研究を進めています。
なお、本研究室を志望する方は、東京大学大学院新領域創成科学研究科 物質系専攻を受験していただきます。
次世代のエレクトロニクス材料として期待される有機半導体
今もこうして皆さんがせっせと情報を集めておられるときに、欠かせないパソコンやディスプレイの基本的な機能を実現しているのは、シリコンなどの固い無機物の半導体です。
本研究室では、次世代の電子材料として期待されている、柔らかくて簡単に作れる有機物の半導体デバイスを中心とした、有機エレクトロニクスの研究を多角的に行っています。柔らかい半導体を使うと、数mmくらいの厚さの超薄型テレビやプラスティック素材の曲がるディスプレイ、さらには服などにして身に着けるウェアラブルコンピュータなどの全く新しい製品が実現するので、画期的な産業になることが期待されています。こうして新しい価値を創造することに、全世界が躍起になって取り組んでいます。
最先端の研究にチャレンジ
本研究室では、世界最高性能の有機半導体のトランジスタを、溶液を塗るだけの(印刷と同じようなやり方で)非常に簡便に作製するなど、主導的な研究を展開しています。
この研究によって、あまり速い動作スピードが得られなかった有機半導体デバイスの弱点を解決できると考えられています。本研究室の大学院生とスタッフが一体となったチームが、こうした世界が注目する研究テーマを力強くけん引しています。
ブレークスルーのカギを握る有機半導体の「結晶」
有機半導体は、有機半導体の分子が集まってできています。有機分子が溶けた溶液を塗って、5分くらいで(ちょっとしたトリックを使って)乾燥させるだけで、最高の性能の有機トランジスタになるという話、実は、分子が規則正しく配列した「結晶」になることがミソです。分子の大きさは数 nmくらいなのですが、有機半導体の結晶ができるときには、1秒間に100億個もの分子が、(有効数字5桁の精度で!)規則正しく並ぶのです。考えてみると大変驚くべきことです(たとえば100人の人が、縦横10人ずつ等間隔に並ぶとしたら、どのくらいの時間がかかるでしょうか)。
始まりは有機合成化学から
こういう現象は、適切に設計された有機分子が素早く凝集して、決まった構造になりやすいという性質に基づいています。つまり、室温で簡単に安く作れるという有機半導体の魅力は、こうした有機分子のもつ自己凝集能にあります。従って今度は、より自己凝集能の優れた分子設計は、と有機合成化学の立場から考えて、新しい化合物を創り出すことになります。
物理研究が明らかにする電子の流れ
次に問題となるのが、有機分子の集まった固体の中を電子が伝導できるかです。通常、電子は有機分子の中の分子軌道にしかいないと考えるのですが、私たちは、高性能の有機半導体では、有機分子の間をつないでいる電子がかなりたくさん存在することを「ホール効果」という物理の実験によって明らかにしました。この実験の結果、高いデバイス性能と電子伝導という物理現象をはじめて結びつけることができました。
新しい価値を創造する工学研究
有機半導体を使うと、超薄型テレビやプラスティック製の曲がるディスプレイ、ウェアラブルコンピュータなど、これまでなかった製品が生まれていきます。本研究室で開発された最高性能の有機半導体デバイスを、論理素子やアクティブマトリックスに応用して、新しい価値を創造する研究を行っています。
大学院の研究を志すみなさんへ
このように、以前より格段に高性能の有機トランジスタを開発する、ということは、有機分子の化学やその中の電子の振る舞いという物理に根差しています。そのために、世界でもあまり例がないのですが、本研究室では、これまでの限界を超えるデバイス性能や全く新しい機能の半導体素子を開発することと、関連する基礎的な物質科学研究を一体として進めることにしました。
竹谷先生より
大学院で研究することの意義は、新しい実験結果を得て、自ら考え、興奮し、周りの人と協力し、社会に発信するというプロセスを経て、課題を解決することに対する成功体験や自信を身につけられることだと思います。研究室で何年か一緒に過ごした後、学生さんたちが驚くほどたくましくなっていかれるのを何度も目にして、いつも驚嘆しています。
皆さんが、充実した研究をされて、次の世代を背負う活躍をされることを心から願っています。